クレヨンの「肌色」はなぜ消えた?うすだいだい色改名の真相と現在
幼少期、お絵描き帳に人物の顔を描くときに誰もが手に取ったクレヨンの「肌色」。しかし、2026年現在の保育園・幼稚園や小学校の教室、そして文房具売り場を見渡しても、その名称を見つけることはできません。定番の描画画材からは「肌色」という呼び名が完全に姿を消し、代わりに「うすだいだい(薄橙)」や「ペールオレンジ」という名前が定着しています。
「いつの間にか呼び方が変わっていたけれど、一体なぜなのか」「なぜメーカーによって表記が分かれているのか」と疑問を抱く人は少なくありません。単なる言葉の言い換えにとどまらず、文具業界の決断、教育現場の葛藤、そして国際化と多文化共生という大きな時代のうねりが背景にありました。取材データと各社の公式記録をもとに、名称変更の真相を深掘りします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「肌色」の呼称変更は1999〜2000年に大手文具各社が一斉に断行し、2001年のJIS規格改訂で標準化された。
- 要点2:変更理由は「特定の色を肌色と規定することが差別や偏見につながる」という多文化共生・国際化への配慮。
- 要点3:サクラクレパス等は親しみやすさから「うすだいだい」、ぺんてるは国際標準を意識し「ペールオレンジ」を採用している。
クレヨンから「肌色」が消えた決定的な理由|改名の発端と歴史の転換点
かつて当たり前のように使われていたクレヨンの「肌色」が業界から消え始めたのは、今から四半世紀以上前の1999年から2000年にかけてのことです。発端となったのは、急速に進んだ国際化と、教育現場における人権意識の高まりでした。
文具メーカー関係者への取材や当時の業界記録によると、日本国内に在留する外国籍の児童や異文化にルーツを持つ子どもたちが増加する中、「特定の色だけを『肌色』と呼ぶことは、多様な肌の色を持つ子どもたちへの配慮に欠けるのではないか」という指摘が教育現場や市民団体から寄せられるようになりました。黄色人種の典型的な肌の色合いだけを「人間の肌の色」と定義してしまうと、無意識のうちに「それ以外の色は普通ではない」という固定観念(アンコンシャス・バイアス)を植え付けかねないという懸念です。
グローバル市場に目を向けると、先行する動きが存在していました。米国の老舗クレヨンブランド「Crayola(クレヨラ)」は、公民権運動が激しさを増していた1962年の時点で「Flesh(肌色)」から「Peach(ピーチ)」へと改名しています。日本国内でも海外輸出を手掛けるメーカーを中心に問題意識が共有され、世紀の変わり目である2000年前後に一挙に呼称変更へと舵が切られました。

メーカー別の名称分脈|サクラクレパスとぺんてるの思想と違い
「肌色」からの改名に際し、国内の文房具メーカーは大きく2つの呼称に分かれました。代表格であるサクラクレパスやトンボ鉛筆が選んだのが「うすだいだい」、一方のぺんてるが選んだのが「ペールオレンジ」です。
ぺんてるは1998年頃から社内で検討を重ね、1999年に業界の先陣を切って「ペールオレンジ」を採用しました。英語表記の「pale orange(薄いオレンジ色)」をそのままカタカナ表記にした理由は、海外輸出における製品管理の合理化に加え、語感の現代性やグローバル基準に直結しやすいという判断によるものです。当時の開発責任者の証言によると、「どの国の言葉に直しても違和感がなく、色の客観的な特徴をそのまま伝える名称」を追求した結果でした。
これに対し、2000年秋から順次切り替えを進めたサクラクレパスは、フラッグシップ製品であるクレパスやクーピーペンシルにおいて、あえて和名である「うすだいだい」を選択しました。未就学児や小学校低学年の児童にとって、外来語の「ペール」は直感的に理解しづらいという現場目線の配慮があったためです。「みかん色」「橙色」の系統であり、「橙を薄くした色」と説明することで、子どもたちが色彩の体系を自然に理解できるように工夫されました。
同様に、色鉛筆のシェアでトップクラスを走るトンボ鉛筆や三菱鉛筆も、学童用製品を中心に「うすだいだい」の表記を採用。メーカーごとのターゲット層や教育理念の違いが、呼称の分岐となって現在も残っています。
【データ比較】主要文具メーカーの呼称対応とJIS規格の変遷
国内の公的な基準においても、この動きは明確に追認されています。工業標準化を担う経済産業省(当時・通商産業省)関連の規格であるJIS規格(JIS Z 8102:物体色の色名)では、2001年の改正時に慣用色名としての「肌色」の扱いが整理され、正式に「うすだいだい」へと置き換わりました。
| メーカー / 規格 | 現行の採用呼称 | 移行完了年 / データ | 編集部の分析・選定理由 |
|---|---|---|---|
| サクラクレパス | うすだいだい | 2000年秋〜出荷開始 | 幼児の発達段階に配慮。外来語を避け直感的な日本語を優先 |
| ぺんてる | ペールオレンジ | 1999年〜先行導入 | 海外輸出・国際規格との親和性を重視。JISの英語併記にも準拠 |
| トンボ鉛筆 | うすだいだい | 2000年〜順次移行 | 学校教育現場の指導要領に即し、児童が混乱しない表現を固定化 |
| 三菱鉛筆(uni) | うすだいだい | 2000年〜順次移行 | 国内定番の880色鉛筆等で標準化。一般認知の統一に貢献 |
| JIS規格(日本産業規格) | うすだいだい(系統色名) | 2001年規格改定 | 「肌色」の名称を公的規格から抹消し、客観的な色体系へ統合 |

「薄橙色」の読み方・色の定義とRGB・カラーコードの仕様
漢字表記である「薄橙色」の読み方は「うすだいだいいろ」です。果物の「橙(だいだい)」に由来し、古くから日本の伝統色として親しまれてきた橙色を明るく淡くした色相を指します。
ウェブデザインやデジタルグラフィック、印刷業界などで指定される具体的な数値仕様は以下の通りです。描画材やメーカーによって顔料配合の微細なブレンド差はあるものの、標準的なデジタル環境では次の値が基準として用いられます。
- カラーコード(HEX):#FCE2C4 または #FCD4A1
- RGB値:R: 252, G: 212, B: 161(明るいトーン) / R: 245, G: 207, B: 152(標準的トーン)
- CMYK値(印刷用):C: 0%, M: 18%, Y: 40%, K: 0% 付近
- マンセル値:おおむね 7.5YR 8.5/4 系統(明るい灰みの黄赤)
「肌」という主観的かつ生体的な言葉を排し、「橙色の明度を高めた色」という客観的な色彩体系の位置づけで定義し直されたことで、産業用デザインやデジタルパレット上でも誤解のない正確な指定が可能になりました。
【実態検証】教育現場と大人の意識調査|「肌色」呼び方現在の浸透度
名称変更から25年以上が経過した2026年現在、実際の教育現場と一般家庭ではどのような変化が起きているのでしょうか。教育関係者へのヒアリングやSNS・ネットコミュニティの声を検証すると、顕著な「世代間ギャップ」が浮き彫りになります。
現在の小学校や保育園に通う子どもたち、さらには20代半ばまでの若年層にとっては、「うすだいだい」や「ペールオレンジ」が生まれたときからの標準語です。「人の顔を描くときはうすだいだいを使う」「肌の色は人によって茶色だったり白っぽかったりする」という認識がごく自然に根付いており、「肌色」という単語自体にピンとこない子どもも珍しくありません。
一方で、30代後半以上の世代やシニア層では、日常生活の雑談やストッキングのカラー指定などで無意識に「肌色」と口にしてしまうケースが依然として見受けられます。ネット掲示板や知恵袋などでは、「子どもに『肌色取って』と言ったら『肌色って何色?』と聞き返されてハッとした」という親世代の投稿が定期的に話題になります。差別的な意図がなくとも、言葉の慣習が生活の中に残っているのが実情です。

一般に知られていない盲点とネットの誤解
名称変更をめぐっては、インターネット上でしばしば極端な言説や誤解が飛び交うことがあります。客観的事実に基づき、それらの誤認を整理しておく必要があります。
よくある誤解の筆頭が、「一部の過激なクレーマーに屈して伝統的な日本語が奪われた」「言葉狩りである」という反発論です。しかし、実際の変更経緯をたどると、単なる抗議への場当たり的対応ではなく、文房具各社が海外展開を加速させるビジネス上の必要性と、JIS規格をはじめとする色彩標準化の流れに沿って、数年間の慎重な議論を経て下された合理的判断でした。
また、「肌色という言葉の使用自体が法律で禁止された」と思い込んでいる人もいますが、これも明らかな誤りです。日常会話で「肌色」と呼ぶことに対して法的な罰則があるわけではありません。化粧品業界では今なお「オークル」「ナチュラル」「肌色補正」といった表現が使われており、あくまで「特定の色だけを公的に肌色と固定化しない」という文脈での配慮であることを理解することが不可欠です。
【プロの結論】「言葉の変更」がもたらした心理的効果と多文化社会の教訓
社会学および心理学の視点からこの事象を分析すると、道具の名称変更が人々の無意識のバイアスを解きほぐす上で極めて大きな役割を果たしたことが分かります。
心理学には「ラベリング効果」と呼ばれる概念があります。ある対象に特定の名称を貼り付けることで、人間の認識や思考がその言葉の枠組みに縛られてしまう現象です。「このクレヨンが肌色だ」と教え込まれて育った子どもは、無意識のうちに「標準的な日本人=この色」「自分や友達の肌もこの色でなければならない」という境界線を引いてしまいがちです。肌の色が濃い子どもが自分の顔を描く際に葛藤を抱えたり、他者と違うことに引け目を感じたりする心理的負荷は、外からは見えにくい構造的なリスクでした。
呼称を「うすだいだい」という純粋な色彩の記述へと置き換えたことは、特定の色への特権性を剥奪し、「肌の色は人それぞれ多様であってよい」という自立した心理的バウンダリー(境界線)を子どもたちの中に育む土台となりました。言葉を変えることは、思考の自由度を取り戻すプロセスそのものだったと言えます。
【うす だいだい 色】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:クレヨンの「肌色」はいつから「うすだいだい色」に変わったのですか?
A1:大手文具メーカーでは1999年にぺんてるが「ペールオレンジ」を採用し、2000年秋にサクラクレパスやトンボ鉛筆が「うすだいだい」への変更を開始しました。公的には2001年のJIS規格改定によって「肌色」の呼称が正式に廃止・整理されています。
Q2:「うすだいだい」と「ペールオレンジ」は何が違うのですか?
A2:指し示している色相・トーンはほぼ同等です。違いはメーカーの命名方針にあります。サクラクレパスやトンボ鉛筆は小さな子どもにも分かりやすい和名として「うすだいだい」を選び、ぺんてるは海外輸出や国際基準を意識して英語由来の「ペールオレンジ」を採用しました。
Q3:大人が日常会話で「肌色」と言ってしまったら不適切ですか?
A3:日常会話で使うこと自体が直ちに処罰されたり否定されたりするわけではありません。ただし、多様なルーツを持つ人々が集まる教育現場、公のビジネスの場、子育ての場などでは、偏見を避けるため「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」などの客観的な表現を用いる配慮が推奨されています。
まとめ:今後の動向と失敗しないための判断基準
クレヨンから「肌色」が消え、「うすだいだい」「ペールオレンジ」へと姿を変えた軌跡は、日本社会が歩んできた多文化共生への具体的な一歩を象徴しています。
家庭や学校、デザイン現場などで色を扱う際は、過去の習慣にとらわれず、次の判断基準を持つことが重要です。絵画教育や児童への声かけでは「うすだいだい」や「ペールオレンジ」を自然に使い、「顔や肌を描くときは好きな色を使っていいんだよ」と多様性を肯定してあげる姿勢が求められます。一方、大人のビジネスマナーやデザイン指示においては、客観的なカラーコード(#FCE2C4など)やJIS系統色名を用いることで、認識の齟齬を防ぎ、現代のコンプライアンスに即した円滑なコミュニケーションを築くことができます。 (出典: うす だいだい 色(Yahoo!ニュース))